その時、夢は途絶えた。
彼女は最後まで頑張った。祖母アパパネの忘れ物、牝馬GⅠ完全制覇に向けて次走いよいよ祖母が唯一果たせなかったエリザベス女王杯に出走する意向を固めていた。出れば間違いなく勝てると誰もが思っていた。
しかし、秋華賞で事故は起きた。華々しく三冠に輝いた彼女はそのままウイニングロードを通って場内を退いて行くところだった。右前脚に痛みが走ったのだ。強がりな彼女は気にせず場内の厩舎に戻った。すると大親友のエールちゃんがおめでとうと言ってくれた。笑顔でありがとうと返すとレーベンちゃんやルージュちゃんも三冠を祝ってくれた。しかし隣にいたソダシちゃんは泣いていた。白毛に生まれなかったエールちゃんはソダシちゃんを妬んでいたため気にも留めていなかったが他の面々は少し気に掛かった。レーベンちゃんはソダシちゃんが2番人気でボロ負けしたのが悔しいんじゃない?と言ったが少し声を掛けてみることにした。しかしソダシちゃんは何も言わなかった。みんなが声を掛けても何も言わない。するとソダシちゃんは遂に口を開いた。みんなは驚いて嘶いた。白い馬体から真っ赤な血が出てきたのだ。その時思い出した。ゲートの中でソダシちゃんが顔を打って出遅れたことを。歯が折れ血を流しながらも頑張って走っていたソダシちゃん。みんなはソダシちゃんに寄り添い始めた。その時、アカイトリちゃんがよろけ出した。見てみるとアカイトリちゃんは左後脚を痛そうに上げて庇っていた。挫石したの?と聞くとアカイトリちゃんは屈腱炎かも知れないと答えた。屈腱炎は進退をも決める恐ろしい怪我だ。どうしようと思っていたら厩務員さんが来た。12レースが終わって帰る時間らしい。ソダシちゃんやアカイトリちゃんを見ると厩務員さんたちは騒がしくなったがみんな無事に帰路に着くことができた。
翌朝、彼女は右前脚の痛みで目が覚めた。今日は休みの日だから調教はしないがもう走れそうにない気がした。厩務員さんに曳かれて牧場に出る時に破行し獣医に診てもらうことになった。すると痛い右前脚に骨膜炎を発症していると告げられた。祖父も骨膜炎で引退している。彼女は悔しくてたまらなかった。骨膜炎は治すのが難しく次走のエリザベス女王杯には絶対に間に合わないからだ。それだけではなくその次に兄や友と一緒に出ようと約束した有馬記念も叶わなくなってしまった。悲しさに暮れながら最後の希望である脚を使わないプール調教で鍛えるも虚しく、史上最強と言われた彼女は遂に引退式もしないまま競走馬登録を抹消することとなった。
後編に続く
(後編は時が経ってから限定公開)